無題
引き留めたい理由も、見たい顔も、聞きたい声も、追いたい姿も、伝えたい事も、数え切れぬ程ある。
それらを一緒くたに毛布で包み込んで、「幾らでも待つ」「居てくれるだけで良い」と言った。
柔らかく温かいその中身はとても重いものだと分かっていながら、どうしても譲れずに、差し出す他に手段が見当たらなかった。
今までに彼が描いた展望や、こちらが彼に託した夢、見せてもらった美しい景色、全てが未だ鮮やかに色と光を帯びたまま、未来を待っているから苦しい。
久々に彼の側から聞く仲間の存在や、ジャニーズアイドルの世界は、一点の曇りもない愛情と綺麗な思い出で塗り潰されたままで、退く事実を飲み込む理由の一欠片にもならなかった。
「彼とはずっと親友」
5人はそう言った。
その繋がりが少し形を変え、こちらの視界から外れるというだけである。
充分に理解出来た。
しかし、我儘な自分にはその景色を手放すことがどうしても辛かった。
自分に見える景色の中で、自分がこの先見たい景色の中で、神宮寺くんの、5人の隣に岩橋くんがいて欲しい。
これは、こちらの願望の話。
「ずっと6人仲良くいたいですね。」
「今は僕の番じゃないけど、他のメンバーをより一層輝かせてあげるっていうのが僕の役割だと思ってるので」
「もっと大きなグループになって、今まで応援してくれてた人に色んな作品を届けられたらいいかなって思う。それが僕の恩返しだと思う。」
「いつかLIVEしたいもんなぁ、ここ(東京ドーム)で。」
アイドルとして駆け抜ける彼が放った言葉も、
「新しい道に進んでも僕はティアラの事が大好きです。」
「僕の青春時代を皆と共に過ごせた事は、人生最高の思い出です。」
「King&Princeのメンバーとして一緒にデビュー出来た事は、人生最高の誇りです。」
「僕はずっとずっとメンバーの事が本当に大好きです。」
この決断を前にして彼が放つ言葉も、
全てが確かに本物であったように思う。
何一つ嘘になること無く、内側からの光を抱いたまま、静かに仕舞われようとしている。
何処か儚く目の前から消えてしまいそうでいて、自分の存在意義や使命に根を張る強さを持っているのだろうと感じる人だ。
何かを放棄するわけでも、妥協するわけでもなく、最初から最後までずっと、大切に思う誰かに向け、自分の存在を全うしている。
これはきっと、願望や正解不正解ではなく、一人の人間の人生の話。
彼は、正真正銘最高のアイドルだった。
彼がアイドルとして歩んできた道程にあるもの、全てが紛れもなく彼の財産であり、彼から貰ったものも、全てがずっと、誰かの中の宝物である。
限りある人生、彼が多くの人の中で真摯に生きてきた末ならば、そこにある愛情はこの先、他でもない彼の思う彼の幸せに向け費やされるべきだ。
どうかその深い愛を一番に自分へ、我儘に生きて欲しい。
11年間、アイドルで居続けてくれてありがとう。
ずっと、自分の他に沢山の人を想い続けてくれてありがとう。
これからの彼に、今まで周囲に与えた何倍、何十倍もの愛情と幸せが降り注ぎますように。
大好きです。